祈願の灰燼用語集1
- みのる 実川
- 5月28日
- 読了時間: 13分
更新日:5月29日
【世界の理】
この世のシステムそのもの。物理法則など科学で解明されていることもここに帰着する。真理、真実、などとも呼べる。
【呪術】
呪術とは世界の理にアクセスするためのツールである。
呪術の使用方法
図形、絵、言葉、音、立体物 ✕ 感情を使用して、世界の理に干渉する。
例:御札(図形+文字×感情)
エミが言うには「プログラムのコードを書き換えてエラーを出して、一時的に本来起こりえない挙動を発生させている。エラーはエラーに過ぎないので、世界の理からすぐに修正される。効果時間は短い(人が組み出せるものでとても長くて数百年行くかどうか)」
感情は術を行使するためのエネルギーコストと考えれば良い。
強い感情であればある程支払うエネルギーの値が大きくなり、術の効力も増す。
負の感情(怒り、悲しみ、憎悪、殺意など)が想起しやすく、使いやすい。
よってこれまで確立されてきた術も、負の感情が由来したものが多いため、術者は負の感情を使用することが多い。使う感情の種類は本人の性格や特性によるので、負の感情を使わない呪術の方法も少ないながら確立されている。
【上位存在について】
人間よりも上位の存在。ひとつ上の次元に存在したり、干渉できるものの総称。
巷では神や精霊と呼ばれる。
・世界の理への干渉権限が大きいものほど脅威である
・必ずしも人間に干渉するものでは無い
・人間に自ら干渉するもの程、脅威が低いとされる(低いの最低値が歴史に残る自然災害規模)
・基本人間側からコンタクトを取らなければいけない
・意思の疎通が必ずできる訳では無い
・人間が上位存在と契約することにより、呪術の行使が本格的に可能になる
・上位存在との契約は血統に依存する
◾︎教えてエミちゃん!どうして血統に依存するの?
「なんで神様との契約が血筋で縛られてるかって、人間が近親交配しまくると奇形児が生まれたり先天的な疾患を持っていることにより、生存確率が大幅に下がり血が絶えやすくなるからですね。あとは外部の血を入れて薄まれば薄まるほど契約内容に制限が課せられていきます。そういう理由もあって、陰陽師や拝み屋、呪術を行使するコミュニティは縦と横の繋がりが強固で閉鎖的です。術を外部に持ち出されて悪用されても困るし、相互監視社会ですね。悪いことに使おうという術師が現れれば、国から命を狙われます。人間社会において覇権を握る事が術師の目的では無いです。我々は観測者に徹する事で術の行使を許されているので。
婚姻に関しても、契約神の違う血筋を家に迎える場合は、人質の意味合いが強いです。政治的な意味合いが強いのでここら辺はとても難しくて、全ての家の相関関係を私はまだ把握出来てはいません。
あと、術師同士で積極的に争ったりはしません。どうにか話し合いで解決するか、依頼人の依頼を断る形で始末をつけます。身内で争って少ない同胞を減らすのもあほらしいですからね」
◾︎教えてエミちゃん!神様と新規契約は難しいの?契約更新の方法は?
「数百年単位で上位の存在とコンタクトを取れることが、まずないと考えてもらえれば。コンタクトが取れても、意思の疎通が取れる確証もありませんしね。コンタクト取れただけで稀代の天才。新規契約できたら、全国の拝み屋連中総出でお祝いする程度に大きな出来事です。呪術師の歴史書にのります。
あと、神様は人間ごときに世界の理に干渉する権限を解放したくないので、自分に有利な契約しか結びません。血統を利用するのも彼らの最大限の譲歩です。血が薄まればそのぶん使える術の効力が弱まるので、現代で力のある拝み屋は江戸時代以降のお家です。陰陽師の連中は少し別ですけどね。
契約更新の方法は基本的に無いとされています。文献で残って遡れる範囲の話ではあるので、太古には契約更新の方法が伝えられていたのでは無いかと考える派閥もあります。そういう派閥は歴史関係のお仕事や、考古学と深い結び付きがあり、表のお仕事がそういう方面の方が多い印象ですね。どの家も常に新たな契約方法については模索しています」
◾︎教えてエミちゃん!エミちゃんは呪術でどういう手法を主に使うの?
「私の呪術の行使方法は概ね2パターンあります。
パターン1
図形と文字を直接物体に書き込んで術式を発動させる
パターン2
スマホの音声認識で予めセットしてある術式を発動させる
私の呪術の行使方法は図形と文字に依存する傾向があるので、まず自分の手で書かないと発動しないことが多いです。呪文を唱えてはい発動!のやり方もありますが、私には適性があまりないです。全く出来ないと言う訳では無いですが、うーん……日本語話者が外国語を喋るのが難しい感覚と近いかもしれません。
お母様や茜くんなんかは呪文派ですね。お祖母様はどんな方法でも任意の呪術を発動できます。化け物です。
契約神との相性や個人の特性に左右されることが多いのかなと、個人的には思っています。
怪異と遭遇している状態など、迅速な対応が求められた時に、1から手書きは予備動作が必要な分結構不利なんですよね。出力結果は呪文よりも大きく出る傾向はありますが、現場での速さは強さです。
幼少の頃はあと一本線を書き足せば術式が発動する状態にした紙類(御札)を大量にストックして、都度書き足して対応していましたが、あ、今でもストックは持ち歩いていますよ。スマートフォンが普及したので、お父様とお母様が共同開発されているスマホアプリの音声認識により、書く過程を省略してあらかじめセットしてある術式を発動させる方法を私は採用しています。
例えば、「イ式-236」とスマホに音声認識させると、「イ式-236」の術式(身体強化)が任意の対象に展開します。任意の対象の設定方法は、私が視界に入れている人間に強く思念を飛ばすことで設定されます。「イ式-236」は自分にかけることは出来ないので、自分に身体強化バフをかけるなら「ツ式-12」になりますね。私だけにわかる五十音と数字で術式を分類しているので、先頭の文字で効果の区分を推察することは無駄だと思います。
さすがに効果の大きい複雑な呪術や、スマホと相性の悪い呪術まで処理は出来ないので、大きいことをしようと思ったら、結局手書きに頼ることが多いです。筆記用具は肌身離したくないと思っています。
あと充電無くなったらスマホ使えなくなるので、バッテリーはたくさん持ち歩かないといけないのが面倒かも。ああ、もちろんスマホは2台持ちです。プライベート用と呪術用で分けています。スペアも含めれば何だかんだ結構台数持ってますね。
得意な呪術についても開示しておきましょうか。
私は「自分と他人に有利な状況を作り出す」ことが得意です。ゲームで言われる、所謂バッファーやエンチャンターとかのやつです。身体強化、回復、特定の能力の向上、防御、そこらへんの術は大した苦労なく使えます。恒久的な効果はありませんので、一定時間を超えると効果は失われます。再度かけ直すことも可能です。
回復についてですが、例をあげると「骨が折れた状態で動けるようにする」に対しては2パターン術がありまして、
・痛みを取り除き、筋肉による支柱を強化し、これ以上動かすことにより悪化しない状態に「状態を固定」する
・人間の治癒速度を極限まで早める
です。前者は術が解ければ痛みも状態も「骨が折れた状態」に戻ります。
後者は術が解けても治った状態にはなりますが、体力……というか、生命力……?の上限値が削れている気がするので極力やらないようにしています。元気の前借りみたいなものですね。
防御に関しては、「自分や任意の他人に向けられる悪意を弾く」という呪術が一番使いやすいと思っています。私が「悪意」だとカウントしたものは全て悪意になるので、物理攻撃も弾けます。それの応用でカウンター攻撃も可能です。基本的に自分の方から攻撃行為を行わないようにはしています。やられたらやり返すが原則です。
バフ系の中でもとりわけ強いと思っているのが「幸運」を操る術です。ささやかなものと捉えるかもしれませんが、「状況が全て自分に有利に作用する状況」が生まれるので、日常や戦闘において私が負けたくないと思えば、負けることはありません。しかし術式が難しく、支払うコストが高いので、持続時間に限りがあり、常時発動することは出来ません。1日1回発動できるかどうかです。発動しない日もありますが、ここぞという所で発動させれば必ず状況が好転します。タイミングが良ければ最大の幸運が訪れる、タイミングが悪くても最悪の事態を回避できる。キラーカードでしょう。幸運の最大値は、「今の状況から自分が確信できる最良の未来」です。未来に希望を抱き続けることが、術への適正でしょうか。私はマイナス思考なので、この術を使うことに苦手意識があります。使いこなすことができれば間違いなく最強です。
物理干渉や攻撃系の呪術の扱いに向いていない自覚はありますね。あとは精神干渉系とか。
まあでも、蛇塚の呪術を参考にしながら、デバフ系統のものも構築中なのでそのうち解決される問題では無いかと思っています。使える術式を見つけるまでトライ・アンド・エラーの繰り返しですからね
トライ・アンド・エラーといえば、旧来的な手法にこだわらず、常に新しいものに目を向け、術の開拓を推進するのが蛇塚家の良いところです。機械類と組み合わせた呪術の分野では抜きん出ていると思います。莫大な資金とノウハウがあるからできる事だとは思いますが、結局の所呪術というものは「神に要求を通す技術」なので、過程に固執する必要は無いのです。気持ちが大事だとは言いますが、適切に感情のコストを払えば対応してくれるので問題ありません。神は私たちが思っているよりも、事務的に事をこなしているように見えます。流派によって考え方は様々なので、蛇塚はこういう方針であると思っていただければと」
◾︎教えてエミちゃん!呪術の上手い下手や強さの基準は?
「血筋の強さ+本人の感情+発想力=呪の出力結果になると私は考えています。
・血筋の強さ……神との契約内容がどれだけ世界に干渉できる要素を揃えているか(術の最大値がここで決定します)
・本人の感情……術に即した感情を、どれだけ術を行使する時に乗せられるか
・発想力……どれだけ契約内容の粗をついたり、術の組み合わせで本来想定されていない結果を出力するか。副作用を如何に自分の目的に沿わせて出力するか
従兄弟の日比野茜くんと私で比較してみましょうか。ちなみに私は蛇塚の神との契約はしていないので、実母の方……辻満の神と契約している状態です。
日比野 茜
血筋Aランク+本人の感情Cランク+発想力Cランク=総合B-ランク(これでも術師の中では才能があり強い方です)
蛇塚 エミ
血筋SSSランク+本人の感情Aランク+発想力Bランク=総合Aランクですね。よく天才と言われます。
ちなみに私が生涯かかっても越えられないと思ってるお祖母様は、血筋A+本人の感情?+発想力SSSSだと思っています。
また、血筋が弱い分本人の感情と発想力を鍛えるしかないお家の方々を見ると、何をどうしたらその術を行使出来るのか一見分からないので、そちらの方がすごいと思ったりもしています。血筋火力ゴリ押しに頼っていると裏をかかれる事もしばしばあるので、上手さや強さの定義は難しいと思いました。状況によります。機転が利く方が結局のところ名を挙げますね。
神との契約内容ですが、物心ついた時から何となく頭の中で理解しているというか……そういう感覚です。契約違反に抵触する呪術を思いつくと感覚的に「出来ない」と感じています。「出来ない」と直感的に思わない範囲で、どうやったらお願いが通るか、お願いの方法をたくさん考えている状態……ですかね。例えるなら、お母さんに欲しい物を買ってほしい時に「これを頑張るから買ってください」「これをあげるから買ってください」のパターンを模索している感じ?
血が薄まるにつれて出来ることが減っていくので、先代と後継者で出来ることリスト(とその手法)を常に更新しているものが、体系的に学問として残っている感じですかね。私達に手を貸してくれる神は恐らく同種なので、お願いの方法が似通っているんです。その中でも神様によって好き嫌いや、できるできないがある。
私は辻満の神との契約者なので、蛇塚の神との契約内容は蛇塚の血縁のものほど理解していません。辻満の方の資料はほぼ無いので私ができることリストを作成している状態ですね。私が生きている内にできるだけ多く残すことが使命です。
◾︎教えてエミちゃん!呪術師ってなにをしてるの?
基本的には世界の理に神様を通してバグ報告をしています。バグを起こす存在が怪異と呼ばれる傾向があります。怪異についてはまた後述しますね。
世界の理から外れた行為……「あるはずの物が無かったことになる。無いはずのものが現実にある。本来その日時で奪われるはずでなかった命が奪われた。本来あるはずの姿から意味を大きく外れた存在に変化している」など、今のは代表的な例で、多種多様なのですが、その違和感に気づくことが出来るのが、神と契約している呪術師のスキルのひとつです。そういった事象は人間の生活を脅かすので、神に報告して修正してもらう必要があります。神も修正を望んでいるので双方がwin-winの関係という事ですね。治安維持組織と思っていただければ。
ただ、神様にバグ報告をしているだけでは人間社会で生活をしていけないので、様々な利権を持っている集団、個人に取り入り、神との契約違反をしない範囲で呪術を行使することで生活を保証して貰ったり、金銭を得ているというわけです。超常的な力で人に害を成すことや利益をもたらす事が出来るので、政治問題に巻き込まれたり、迫害されたり、色々していました。現代にまで拝み屋に負のイメージが強いのはこれのせいですね。近世では表の家業を持っている拝み屋が殆どです。蛇塚の母方の表家業は不動産経営をしています。お父様はIT関連の事業をなさっているので、私は生粋の大金持ちという事です。人間相手の拝み屋のお仕事で大金を得ることは、うちに関してはほぼ無いですね。治安維持の方面では積極的に専門チームを組んで、地域の神社仏閣と連携しながら活動しています。地域包括ケアを目指して行けたらなという感じです。
また、例えばの話ですが、個人の方から「人を呪い殺して欲しい」というご依頼があったとして、呪術で直接命を奪うことは神との契約違反に当たります。
呪いと言われて皆さん、不幸なことが立て続けに起こることを想像しませんか? どうして呪いをかけた瞬間に、人の心肺が停止し、絶命しないのか、考えたことはありますか? 呪術師は人の命を直接奪うことが出来ないからです。
しかし、人が命の危険に晒される状況を設定してやって、呪術師が直接関わること以外の要因で、命を奪う事は可能です。交通事故だとか、火事だとか、転倒だとか、自殺行為に走る程度に精神錯乱を起こさせたりだとか。
人を呪わば穴二つという言葉がありますね。呪返しと言うのも聞きます。あれは、神様からの怒られです。あからさまに契約違反ギリギリを攻めると、やりすぎだと怒られます。あんまり回数を重ねると、術師本人の命の危険にも繋がります。一発アウトの所もあるので、神との契約内容にもよりますが。
人を殺すとハイリスクハイリターンなので、どれだけお金を積んでも、殆どの呪術師はそういった依頼を受けることはありません。呪術師が加盟している連盟の規則でそもそも禁止されているのもありますし、現代社会におけるモラルや倫理に引っかかるという問題もあります。
ただ契約の穴をつくのがものすごく上手い呪術師が居るのも否めないです。やろうと思えばできる呪術師はたくさんいます。バレたら国から命を狙われるので、やらない人が大半です。
国から命を狙われるというのは、呪術師で構成された国の非公開の直轄組織があるので……とだけ言えば想像がつきますよね?
呪術師の全体の目的は真理の究明と人間の守護とでも言っておきましょうか。この世に起こる事象のすべてを解き明かしたい、知りたい。そういった動機で動きつつ、人間のことも人間を超越した概念から守ろうとしています。前者と後者どちらに方針が触れているかで家の色が出るのも面白いところですね。蛇塚は半々といったところでしょうか。バランスよくやっています」
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