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第8話 

 エミは朝食をとり終わり、和勝と合流した。城の中を好きに見て回っていいと達しが来ていたので、二人は当て所無く廊下を連れ立って歩く。
「魔法陣の確認はできたの?」
「バッチリですよ」
「これからどうするつもり?」
「とりあえず人間界の軍事力を大まかに知りたいところです」
「聞ける人とか探す?」
「んー、どうしましょうかねえ」
 何も考えずに歩いていたが、ちょうどエカチェリーナの研究室前である。エミはそこで立ち止まり、ドアをノックした。和勝はここが何処なのかよくわかっていないので「何の部屋なの?」と耳打ちする。
「エカチェリーナさん……私達を召喚した人の研究室ですよ」
「なんで知ってるの」
「朝迷ってたら遭遇しました」
「はーい! はいはい! ちょっとまってくださいね~!」
 しばらくして扉は開き、エカチェリーナが顔を出す。
「すいません、今お時間よろしいですか?」
 エミは申し訳ないという顔を作ってエカチェリーナに話しかけた。
「いいですよー! どうされたのですか」
「私達、戦いに出る前に、この国のことについて色々聞きたいと思っていて、特に魔法のこととか……」
「なるほど! エミ様は魔法適性がお有りでしたものね! 何も知らずに実戦投入されるのは不安でありましょう! 私で良ければ色々お教えしますよ! ちょうど今開発中の魔法具の演算待ちですので、暇をしていたところなのです!」
「ありがとうございます。彼も一緒に良いですか?」
「勿論でございます! ああっ人を呼べるような部屋をしていないので、別の場所に移りましょうか」
「はい」
 エカチェリーナに先導されて少し廊下を歩き、応接間のような部屋に通された。
「此処はいつも綺麗にしていますのでね。どうぞ」
 二人は低い机を挟んでソファーに座る。その反対側にエカチェリーナがちょこんと座った。
「何からお話すればよいですかね~」
「魔族と戦っていることは王様の説明でわかったのですが、ここ数年の戦況などを教えていただければ。どういう状態の戦線に放り出されるか、知っていたほうがいいかなと思ったので」
「なるほど。ざっくりとした説明なのですが……」
 エカチェリーナの話によると、最前線ではイージリス王国における騎兵が主に活躍し、魔物たちと鍔迫り合いを繰り返しているということだった。ここ十年で魔法部隊がしっかりと編成されたので、都度空中からの遠隔攻撃で魔物を一掃できるようになったが、魔王軍も飛行型の魔物を投入してくるようになったので五分五分。今のところ戦線維持出来ているが、これからの補給兵が途切れれば一気にそれは後退するであろうこと、現状打開策として勇者の投入による戦線打開が練られていることがわかった。
「勇者が……俺が戦うだけでそんなに違うものですか?」
「勇者が持つ固有スキルが魔物に対して有効なので、居るのと居ないのでは雲泥の差なのです! 和勝様はまだレベルが低いですが、きちんと訓練をしたり魔物を倒せば経験値が溜まって、いずれは強力な技を使えるようになりますよ」
「俺戦ったりしたこと無いんだけど、その、最初のうちってどういう風に……」
「軍部の者がきちんと剣技の指導をしてくれるのですよ。それから一定の経験値稼ぎ用に、檻に入れた高レベルの魔物を毒で弱らせ、トドメを和勝様にさしていただきます。こうすれば身の危険をできるだけ減らしながら、レベリングができるでしょう。一定の強さになったら戦場へ出ていただきます」
「なるほど……」
 一応ちゃんと勇者を序盤で死なせないような段取りを組んであるのだなと、和勝は感心した。
 それからエミは知っていることを上手く隠しながら初歩的な質問から、徐々に高度な質問を繰り出していき、エカチェリーナとの会話は5時間にわたった。

 エカチェリーナとの会話が終わり、昼食を済ませた二人は和勝の部屋に一旦引き上げていた。エミはソファーにぐでーっと寝転がっており、和勝は向かいのソファーに座っている。一応の部屋の主よりエミは部屋でくつろいでいた。
「知りたいことは知れた?」
「まあ概ね」
「異世界って凄いな」
 和勝はエカチェリーナからされた魔法の話や、魔王軍のこと、イージリス王国やその周辺の国々のこと、開発中の魔法具の事を思い出していた。どれもこれも新鮮な話ばかりで、心が踊らないといえば嘘になる。
「エカチェリーナさんから話を聞いてどうです。普通にこのまま戦いたくなりましたか?」
「いや、それは流石に勘弁」
「先程の質問をしておいてなんですが、魔王と戦いたいですか?」
「無理だろ……」
「ですよね。一応魔法の発動条件的に、勇者が倒したほうがいいのかなと思ったのですが、まあ私がやればいいか」
「倒すって、殺すってことだよな」
「そうなるでしょう」
「殺せるの?」
「必要とあらば、仕方がありませんよね」
 そう虫を殺すような気軽さで言葉を放ったエミをじっと見て、和勝はなんともいえない気持ちになった。
「エミちゃんは魔王を殺した魔法の発動条件で、元の世界に帰る気なんだ?」
「そうですね」
「それって、それってなんかさ……」
「なんですか?」
「人殺しになるじゃん」
 和勝は静かにそう言った。
「ああ、倫理の話ですか」
 エミは自分が魔王を倒せる技量があるかどうかの話かと思っていたので、道徳や倫理の話を持ち出されて少し驚いた。
「これまでエミちゃんは魔法の力を持っていても、平穏な生活を送るためにそれを使ってこなかったわけだろ。いいの?」
「状況が状況ですので致し方ないかと。それに、何かを殺すのは初めてではありませんし。前世で私が、どれだけの人を殺してきたと思っているんですか?」
「でも、今のエミちゃんは誰も殺してないよ」
「……この話はいくらしても平行線ですよ。今は殺す選択肢しか用意されていません。それに、魔族は人とは違う種族ですから、ノーカンです」
「そう……そうかなあ」
「まあでも別の方法が無いか、模索はしてみますよ。私できるだけ普通に、平穏に生きたいと思っていますし」
「それはよかった。で、これからどうするの?」
「エカチェリーナさんから話を聞いて、大まかに転移魔法陣は自分で作れそうだなと思っているんです。だからそれのお試しを何度かして、多少魔物を狩って腕試しをしてから、魔王城に転移魔法陣を展開して、直接殴り込みに行こうかと思っています。明日は転移魔法陣の構築で1日潰すので、和勝くんは自由にしていていいですよ」
「なんで魔王城の場所知ってるの? 王国側でもまだ特定できていないって言ってたよね」
「まあ前世の記憶があるので」
「それを城の人に教えて、一緒に乗り込んだりはしないの?」
「兵が多くても練度が足りなければ、無駄に命が散るだけです。隠密行動をしてラスボスを叩くほうが効率がいいと思いました」
「なるほど」
「一応和勝くんも魔王城には連れていきますが、戦闘をさせる予定はないので気楽に構えてればいいですよ」
「うーん。うーん……わかった」
 和勝は自分は完全に足手まといであることに、少し落胆していた。なにか協力できることがあればと思っていたのだが、出る幕はなさそうである。
「多分あと二日もあれば帰れるので辛抱してください。私頑張りますから」
「ありがとね……」

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