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第5話 

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「召喚成功です!! 二人も勇者様が来てくださるとは!何たる僥倖!」
ローブを被った黄緑色の髪の少女がそう言って二人を歓迎する。今いる場所はヨーロッパの王宮のような作りの広間のような所で、床には魔法陣が描かれていた。奥の方には祭壇があり、部屋をぐるりと光のともった石がふよふよと浮きながら淡い光で部屋を照らしている。少女の他には、4人ほどローブを纏った男たちが居り、彼らはなにやら興奮した様子だった。

 

唖然とした二人は魔方陣が描かれた床の上にちょこんと座っており、現状の把握がいまいち出来ていない。先程まで暗闇の中をおっかなびっくり歩き続け、まばゆい光りに包まれたと思ったらここに居たのだ。
「あのう、ここはどこですか?」
エミが恐る恐るといった様子で口を開くと、ローブの少女は驚いてこちらの方を向いた。
「我々の言葉がわかるのですか?」
「はい。もう一度聞きますが、ここはどこですか?」
「言語変換の魔法も発動しているということですね……! よかった! いちから我が国の言葉を教えるか、翻訳の魔法を開発しなければいけないかと思っておりましたので、手間が省けて良うござんした! あっ此処はどこかというと、イージリス王国という国の王宮内にございます」
「イージリス王国」
エミは聞き覚えのある名前だなと思った。かつての記憶を頭の中で検索すると1つ該当する前世がある。そして周囲の魔法陣をつぶさに観察した。

 

非常に高度な魔法陣だ。古い言葉が多いので、恐らく新しい術式を開発したわけではないようだ。パッと見ただけでは、全体像を把握しきれないが、この国にまだこんな魔法が残っていたとは驚きである。
考えに耽ってしまっているエミの横で、和勝はこの場ではじめて声をあげた。
「勇者ってどういうことですか」
「異世界から、この国を救う勇者として選ばれたのです! これからこの国、いいえ人類の脅威たる魔族と戦い魔王を討ち取れるのは貴方方だけ!!」
少女はキラキラとした瞳で二人を眺めた。
「申し遅れました! 私これから歴史に名を残す天才魔術師のエカチェリーナと申します! お二方のお名前を伺ってもよろしいですか?」
「あー俺は……」
和勝が先に口を開こうとしたが、エミが目線で制したので押し黙る。
「エミです」
下の名前しか明かすなと言うことだろう。
「和勝です」
「エミ様、和勝様ですね!承知いたしました。それではこれからこの水晶に手をかざしていただいて、ステータスの測定をさせていただければと思うのですが、構いませんね?」

エカチェリーナの後ろに立っていた男が、台座に収まったバスケットボールくらいの大きさの透明な玉を持ち出してきた。

 

「和勝くん、先にお願いします」
エミが急に下の名前呼びになったので、和勝はドキ!と心を跳ねさせた。こんなよくわからない状況に巻き込まれていても、可愛い子からの名前呼びにはぐっとくるものがある。
「おう、わかった」
和勝は言われた通り、水晶に手をかざした。そうすると水晶は黄金に発光したあと、何やらゲームによくあるウィンドウのようなものがポップアップする。
『和勝 レベル5 勇者 スキル:退魔、強者特攻、経験値増強』
「おお……和勝様は凄くレアなスキルばかりをお持ちのようですね! レベルはこれから上げていくにしても、経験値増強のスキルで楽に上がっていくことでしょう!」
「へー……なんかよかったです?」
 和勝は褒められてぽりぽりと恥ずかしそうに頬を掻いた。
「次はエミ様ですね!」
「はい…………」
「どうかされましたか?」
「いいえ」

 

エミは内心焦っていた。このステータス表示の魔道具が本当に自分の持っている全てのステータスを開示するのであれば――自分の前世のスキルも換算してしまうとしたら、とんでもない表示量になってしまう事がわかっていたからだ。勇者として選ばれた和勝がスキル3つ。多分それをゆうに超えるどころか桁が3つくらい違うと思う。そしてこの国の人間に見られてはまずいスキルも恐らくあるはずだ。
エミはできるかどうか分からなかったが、どうにかこうにか前世で習得した魔力量圧縮を試みる。これでレベルは下がるはずだ。そしてまたこれも一か八かではあるが、呪言を水晶玉に向けて飛ばした。「ステータスを改ざんしろ」という短い命令式だ。この世界にある魔法とは系統の違う術だが、今はこれしか対処法が思いつかなかった。
恐る恐る水晶玉に手を伸ばし、触れる。そうすると、水晶玉は黒い光を発し、メッセージウィンドウがステータスを表示した。
『エミ レベル32 魔法使い スキル:魔力増強、魔力回復、自然治癒、癒やしの力、回避』
「エミ様は初期レベルが高いですね! そして魔法使い! スキルもサポートに適している物が多いですね~勇者様を支えてあげてください!」
「そうですね。頑張ります」
エミは清々しい顔でそう答えた。でてきたのは恐らく全くのでたらめなステータスだったので、とても安心した。
こうして二人のステータス測定が終わった。
「これからお二人にはこの国の国王様に謁見していただきます! そこで詳しいお話を聞いてきてください! ジミー、マギー、王の間へお二人をお連れしてさしあげて!」
「御意」
 
二人は召喚部屋から出て、豪華な大きな廊下を通り、王の間と呼ばれるこれまたことさら豪華な部屋に通された。部屋の奥に玉座が置いてあり、そこには如何にも王様風の男が座っていた。彼の傍らには従者が控えており、吹き抜けの二階のほうには、恐らく王を取り巻く貴族たちが異世界からやってきた勇者を見物しようと集まっている。
「よく来られた勇者殿。わしがイージリス王国の王、アイダリス・フォン・イージリス32世だ。勇者殿、それぞれの名を聞こう」
校長先生からの授与式よりも厳かな場を経験したことのない和勝は、どうしたらいいかわからずにそわそわとしていた。
「は、はい……えっと、俺は和勝と申します」
「エミと申します」
「さて、まずは事情を説明せねばならんだろうな。イージリス王国及び人類は今滅びへと向かおうとしている。」
「はい……」
王様の話を要約するとこうだ。魔族と人間は昔から争っており、魔族の軍勢を退けることが年々困難になっている。三十二年前に一度イージリス王国以外の国が、勇者を召喚し魔王の軍勢を退け魔王討伐をしかけるも、勇者一行は死亡。一度戦線を引いた魔族からの報復は苛烈さを増し、今はこのイージリス王国を最前線として魔族との闘いが続いている。
「わしらは魔族との戦いには、勇者が必ず必要じゃと思っておる。だからアイヴァンホーから召喚の儀を譲り受け、勇者を召喚した。もはや一刻の猶予もない」
「私達があなた達の国のために命をかける理由は?」
「先ほど水晶にかざした手を見てみろ」
ふたりが自分の手を見ると、いつの間にかイージリス王国のものであろう紋章が浮かび上がっていた。
「これは令呪の印だ。魔族と戦わないというのであれば、命はないと思え」
「っ、こんなの脅しじゃないか!」
和勝はこの理不尽に思わず叫ぶ。令呪とはなにか、詳しいことはわかっていなかったが察するに人を隷属させる魔法のようなものなのだろう。こんなものを勝手に体に刻まれ、魔王と戦わなければ殺すとまで言われては黙っていることは出来なかった。
「我々の国にはもう、勇者に頼ることしか望みがないのだよ。なんだってする。戦線にいる兵士たちのため、国民のためであれば……」
国王の顔は真剣だった。もうこれ以上何も間違えることの出来ない人の顔だった。
「あの、私達、元の世界に帰ることはできるんですか?」
剣呑とした雰囲気の中、エミはのんびりとした声で王様へ問いかける。
「魔王さえ倒してくれれば、召喚の儀の魔法によりそなたたちの故郷へと道は開かれる」
「なるほど」
「それに、負けるような戦いを我々もしたいわけではない。兵や資金は潤沢に揃える。どうかこの国を救ってはくれまいか」
そう重たい声で国王が二人に問いかける中、エミは「わかりました」と軽い声で返事をした。
エミが随分あっさり魔王退治を引き受けるので、和勝は驚いて声を荒げる。
「それでいいのかよ!? 俺達これから戦った経験もないのに、戦わされるんだぞ!?」
「良いんです。私に考えがあります。和勝くんは何も心配する必要はありませんよ」
「そんなこと言ったって……」
ブツクサと文句を続けようとする和勝を制止して、エミは王様へと向き直った。
「王様、最後に1つ質問をいいですか?」
「よかろう」
「今の魔王の名前ってわかります?」
「魔王の名はファルゴールじゃ」
王様は忌々しいと言わんばかりの声でそう告げた。
「結構。承知しました。必ず私達がこの国を救ってみせましょう」

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