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第14話 

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 駅のホームの音がする。電車がやってくる時の音だ。目を開けると見慣れた駅のホームに二人は立っていた。時刻は十七時手前で、自分たちが電車に乗り込んだ時刻から数時間ほどしか経っていない。
「あ、うまくいきましたね」
 その言葉とともにホームに滑り込んできた電車が停まり、人が中からわさわさと出てきて、二人のことをジロジロと眺めた。
 和勝はどうしてこんなに注目されているのだろうかと思った後、自分のしている格好のことを思い出した。自分たちはまるで、西洋ファンタジーのコスプレのような格好をしているのだった。
 もともと着てきた制服は自分が今持っている冒険者らしいバックの中に詰まっている。エミはケープのフードを目深にかぶると「じゃあこれで」と言ってスタスタと歩きだした。
「ど、どこ行くんだよ!」
「流石にコスプレしたまま電車に乗れないから、トイレで着替えて帰ります」
「お、俺もそうする!」
 和勝は走ってエミの後ろを追いかけた。二人は順番に多目的トイレで服を着替えてからでてきた。和勝は腰にさしていたロングソードを、どうしたものかなと思いながら抱えている。
「銃刀法違反にならない……?」
 不安げな顔でそう言うと、あっさりと「それはそうですね」と返される。
「どうしたらいい? 警察とかに行ったほうがいいの?」
「それ貸してください」
 エミはもう一度多目的トイレの中に入ると、剣を魔法でお土産のキーホルダーサイズにして和勝に渡した。
「一応、記念にあげます」
「わ、すげえ! 小さくなってる! ありがとう! あ、俺も写真……エミちゃんってクラスのグループ入ってるよな?」
「はい」
 和勝はグループの中からエミのアカウントを探して、友だち登録をした。「ありがとな」というメッセージと共に撮った写真を送る。そうするとエミのスマホに通知が来た。エミはその場でニコニコしたうさぎのスタンプを押して返す。
「家に帰りましょうか」
「そうだね」
 また駅のホームへ戻り、今度はよくよく電車を見てから他の乗客がいることを確認し、二人は電車に乗った。
「今日は疲れましたね」
 比較的空いている車内で、ドアの付近に立っているエミは窓の外を眺めながらそう言った。
「ちゃんと帰ってこれてよかったよ」
「そうですね」
「ありがとね。全部エミちゃんのおかげだ」
「いえ、お気になさらず」
 エミは余所余所しくそう言った。
「エミちゃんって花とか好き?」
 和勝はエミが心的距離を取ろうとしているのに構わず、話を続ける。
「何でですか」
「花がきれいな庭だったから」
「ああ……そうですね。あの頃は花が好きでしたよ」
「今は?」
「今はそうでもないです。自分で育てたりもしてないですね」
「そっか。じゃあ今度なんか一緒に食べに行かない?」
「何でですか」
「俺のおごりで。お礼っていうか」
「そういうの良いんで。気にしないでください」
「なんか返さないと俺の気が収まらないよ」
「本当に気にしなくて良いので」
 そんなやり取りをしていると、和勝の降りる駅に到着した。
「あー、絶対なんかお礼するから、また明日な!」
 そう言って、和勝は仕方無しに電車を降りた。
「また明日か……」
 あちらの世界で数日を過ごしたので、日付感覚が狂ってはいたが、明日から夏休み前の補講である。実質授業があるのと同じで、もう少し和勝と顔を合わせなくてはならない。退屈で平穏で、平和な日常が帰ってきたのだ。
 多分、前以上に彼は話しかけてくるだろうし、エミの気はちょっとだけ重かった。しかし、長年隠し続けてきた秘密を全部知っている人が、一人できたのだ。これが吉と出るか凶と出るかわからなかったが、肩に乗っかっていた大きなものが、少しだけ降りたような気もする。
「これからは、何事もなく、平穏な日々が続いてほしいなあ……」
 そうひとりごちる彼女の言葉は小さく、空気に溶けて消えた。
 もし私を見ている神様がいるなら、もう1度は苦労をしたのだから、次回以降は勘弁して欲しい。頼むから、普通の女子高生をやらせて欲しい。多少の人間関係のいざこざに巻き込まれても、異世界転移だなんていう大きなアクシデントに比べれば些細なことだと受け入れるから、どうかこれ以上の大きな受難は起きませんように。
 エミが降りる駅で電車は止まる。彼女は電車を降りてから、いつものようにホームを上がって改札を抜けた。駐輪場に止めた自転車を探して、鍵がないことに気がつく。あっちの城で制服を着替える時に、ポケットに入れっぱなしだったのかもしれない。洗濯をしてもらった際に何処かへ行ってしまったのだろう。エミはなんとも思わず短く呪文を唱えて、解錠の魔法を使う。カシャン! と音がして自転車の鍵は開いた。自転車を押してまたがり、家に向けて走り出した時に、エミは我に返る。
 今、私は無意識に人目があるかもわからない場所で魔法を行使してしまった?
「たった数日とはいえ、慣れというものは恐ろしいものね……」
 自分はこの世界で、普通に平穏に暮らしたいのだ。魔法なんかを使っている所が誰かにバレて、なにかまた大事に巻き込まれたら大変だ。
「本当に、気をつけなきゃ……」
 だって私は、普通の平凡な女の子になって、平穏無事な人生を送りたいのだから。

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